ここ30年間で、太陽系の外に6,000個もの惑星が見つかってきました。その中には地球によく似ている、つまり液体の水が存在していると期待される惑星も数十個あります。そこで「地球外に知的生命はいるのか、文明はあるのか」という問いが、以前よりずっと具体的なものになってきています。もし他の惑星に私たちのような文明があれば、その手がかりを電波でとらえよう。そう考えて宇宙に電波望遠鏡を向ける試みが、SETI(地球外知的生命探査)です。SETIの基本事項については、ばんどう通信第3号の宇野さんの記事にゆずり、ここではその先、私が最近の論文で提案した新しい方法を紹介します。
これまでのSETIは、いわば「地球外文明からの信号があるか、ないか」を問うものでした。次世代の巨大電波望遠鏡SKAなら、4光年先の隣の星から、携帯電話の基地局ほどの弱い電波でも1時間の観測ほどでとらえられると見積もられています。もう手が届くところまで来ているのです。しかしたとえ信号を見つけても、その惑星は電波望遠鏡で点にしか見えません。それほど太陽系外の惑星は遠いのです。その表面のようすなど、見えるはずもない。長らく、そう思われてきました。
ところが、その「点」にも、じつは惑星上の文明の地図の情報が隠れています。鍵になるのは、惑星が自転しているという、ごく当たり前の事実です。
私たちの地球では、電波送信機の多くはほぼ水平、地面と平行に近い向きへ電波を放ちます。もし地球の外の宇宙空間から地球を電波望遠鏡で観測したとしたら、観測者の真正面にある送信機の電波は観測者に届かず、むしろ地球の縁にある送信機の電波こそが届きます。地球が回れば、縁に来る地域は次々と入れ替わり、受け取る電波は一日の周期でゆっくりと移り変わります。
さらに大切なのが、回転にともなうドップラー効果です。救急車が近づくとサイレンが高く、遠ざかると低く聞こえるのと同じように、観測者の方へ回り込んでくる縁の送信機は電波の振動数がわずかに高いほうへ、遠ざかる縁の送信機は低いほうへずれます。ずれの大きさを決めるのは、その場所が動く速さです。自転の速さは赤道でいちばん速く、高緯度ほど遅くなりますから、振動数のずれの大きさは、送信機のいる「緯度」を教えてくれます。一方、どの地域が縁に来ているかは時間とともに移りますので、「経度」は電波シグナルの時間変化のなかに刻まれるのです。つまり、「どの振動数の電波が、いつ現れるか」という観測データのなかに、送信機が地球上のどこにあるかが、まるごと暗号化されているのです。私の論文ではこの模様を逆にたどり、観測データを地図へと翻訳する方法を組み立てました。
ちなみに、このずれ自体はごくわずかです。地球の赤道が動く速さは秒速およそ470m。振動数のずれはおよそ百万分の1(正確には約1.6×10⁻⁶)にしかなりません。1GHzの電波なら、ずれの幅はせいぜい1.6kHzほどです。それでも、狭い帯域を1〜10Hzという細かさで刻んで探すSETIの装置にとって、この程度のずれを見分けるのは難しくありません。
実際に、地球を「地球外文明」とみなしてシミュレーションした結果を、一枚にまとめた図で示します。上の図は、人口10万人を超える世界の都市を並べたもので、送信機の分布を人口で代用した「正解」にあたります。下の図は、雑音を加えた模擬観測データから、私の方法で復元した地図です。二つを見比べると、北アメリカの東西の沿岸、ヨーロッパ、インドから西アジア、東アジアや日本といった、人口の集中する地域がちゃんと浮かび上がっているのがわかります。送信機の分布は人口の分布を、その人口はまた大陸のかたちや気候の帯をなぞります。ですからこの地図は、見えない惑星の地理をのぞく小さな窓にもなるのです。
ただし、限界もあります。北緯30度と南緯30度では、自転の速さが同じなので、電波観測のデータ上ではまったく見分けがつきません。そのため復元された地図は、赤道をはさんで南北が鏡写しになります。下の図で南半球に見える明るい点の多くは、じつは北半球の地域が映り込んだ「影」であって、そこに本物があるわけではないのです。それでも、このように復元した地図の意味は小さくありません。SKA級の望遠鏡があれば、38光年以内にある約500個の近い星について、空港レーダー並みの強い送信機なら、その電波をとらえられると見込まれます。そして信号さえ十分な強さで得られれば、SETIは「地球外文明がある/ない」の検出から、「惑星上のどこで活動しているか」を描く段階へと進めます。地図のかたちや、それが繰り返す周期は、その惑星の自転の速さや大きさといった素性までも、遠くから推し量る手がかりになるでしょう。
かつて地球で世界地図が探検の時代を切り開いたように、遠い技術文明の「最初の地図」は、宇宙のなかの私たちの居場所の見方を変えていくかもしれません。
参考文献
Keitaro Takahashi, The Astrophysical Journal, Volume 1000, 246 (2026)